2ちゃんねる スマホ用 ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50    

甲殻類の料理と違い昆虫はなぜゲテモノ?

32 :ななしの珍味:2007/04/11(水) 21:53:15 ID:hQ6po+iI.net
久しぶりに、夫婦で回転寿司屋に行った。
 魚介類の好きな夫は熱いおしぼりで手を拭きながら、既に視線は美味しそうに握られたお寿司に釘付けになっている。
「何から食べようかな……」
「どれも美味しそうで、迷っちゃうね」
 ベルトの上をぐるぐる回る寿司ネタを見ていたら、やけに蝦蛄(しゃこ)の乗ったお皿が多いことに気がついた。
「へい、らっしゃい! 今日は東京湾で捕れたいい蝦蛄入ってるよ!」
 風呂上がりっぽい清潔感を漂わせた若い職人が、誰に言うともなしに寿司を握る手を休めないまま言う。
「蝦蛄うまそうだな。どれ、ひとつ」
 それを聞いた夫がすばやく蝦蛄の乗ったお皿を取る。海老に似ているようで実はかなりグロテスクな容姿をしている蝦蛄が、私は苦手だった。

 私が高校生の頃、バイト先に『蝦蛄おばさん』と呼ばれている女性がいた。 
 昼休憩に従業員の控え室に行くと、おばさんは蝦蛄がびっちり詰まったパックをテーブルの上に置き、それをおかずに白い御飯を食べていた。
 おかずは蝦蛄だけ。その隣には、醤油の入った小皿。おばさんは箸で蝦蛄をつまむと軽く醤油皿の上を泳がせて、無表情のまま口に運ぶ。
 ぺろり、一枚。ぺろり、そしてまた一枚。
 パックの中の蝦蛄が全て食べ尽くされた時点で、おばさんの食事も終わる。それが毎日、繰り返された。

「そう言えば、蝦蛄って汚い海の方がよく捕れるんだってさ」
 夫が口をもぐもぐさせ、蝦蛄を咀嚼しながら言った。
「……知ってる。水死体なんかが上がると、それを餌に群がってるらしいね」
「やめろよ、食べてる時にそんな話」
 私も自分で言って気分が悪くなり、口をつぐんだ。
 さっきから何度も何度も蝦蛄の乗ったお皿が、私の前を通り過ぎてゆく。夫は活きのいい蝦蛄がたいそう気に入ったらしく、すでに蝦蛄ばかり三皿めに突入していた。

 蝦蛄おばさんの存在があまりにも無気味だったので、私は他の従業員にこっそり歳を訊いてみた。おばさんは六十歳を越えていた。
 どう見ても四十代の後半くらいにしか見えなかったので、私はとても驚いた。肌は白くみずみずしくて輝いていたし、歳の割にはかなりスタイルも良かったからだ。
 海水でふやけて、柔らかく膨らんだ人間の肉。それを食べて育った蝦蛄は、どんな味がするんだろう。
 もしかしたら蝦蛄は、おばさんの若さと美しさの秘けつだったのかもしれない。

「蝦蛄、新鮮で美味しいよ。食べてみなよ……ほら」
 夫はそう言うと、親切にも蝦蛄のお皿を取って私の目の前に置いてくれた。
「ありがとう」
 気を取り直した私は夫の顔を見て、言葉を失った。
 そこには、あきらかに入店時よりも肌の色つやのいい、活き活きとした夫の笑顔があった。

23 KB
新着レスの表示

掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50
名前: E-mail (省略可) :

read.cgi ver 2014.07.20.01.SC 2014/07/20 D ★