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小説アプリで小説投稿するから内容を決めよう!wwww

1 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 10:21:51.67 ID:1tY5PCyq.net
安価でやろうと思うが、なんせ初めて安価するからグダグダしたらすまんな

2 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 10:23:14.51 ID:1tY5PCyq.net
とりあえずレスが来るまで待つ

3 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 10:26:15.67 ID:1tY5PCyq.net
あっれwww

誰もいないパターンか?

4 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 10:36:17.54 ID:1tY5PCyq.net
まじで誰もいないのか?w

誰かタイトル考えてwwww

5 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 11:06:40.28 ID:12CvvQj9.net
運び屋ジェシカと黒猫コイル

6 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 11:12:57.79 ID:1tY5PCyq.net
お?

タイトルきたw

よし続けて>>7に出だしの部分を

7 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 11:23:52.28 ID:12CvvQj9.net
私の名はジェシカ=リッケンバッカ―。
ヘアピンから核弾頭まで何でも運ぶ、いわゆる<運び屋>ってやつをやっている。
12歳から3年間この商売をやっているが、修道院からの以来ってのは今回が初めてだ。

8 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 11:25:08.09 ID:12CvvQj9.net
ていうかここじゃ人来ないからw
俺とお前の小説になるぞ。
>>8

9 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 11:31:44.89 ID:1tY5PCyq.net
>>8

そうなのかwww

スレ立て2回目だからわからないことだらけなんよwww

10 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 11:46:15.10 ID:12CvvQj9.net
創作発表
http://hayabusa6.2ch.net/mitemite/

ここら辺かなぁ。一行リレー小説なんてスレあるから。
とにかくここは初心者の質問板ゆえ・・・。

11 :ひよこ名無しさん:2016/01/02(土) 12:07:14.34 ID:1tY5PCyq.net
>>10

親切にありがとう!

確かにここだと場違いだ…

12 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 13:53:10.49 ID:12CvvQj9.net
というわけで俺が続き書いといてやるから。

13 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 16:47:21.38 ID:12CvvQj9.net
「ここか、リグラス修道院」

リヒャルドという寂れた町の郊外に、その立派な建物はあった。
人類が太陽系外へ到達するような23世紀の現在、神などというものを信じている輩がいるとはね。
私は神など信じない。神って奴がこの世にいるなら、12歳で運び屋なんてならなかったろうさ。
その敷地に足を踏み入れると、修道服を着た女が声を掛けてきた。

「あの、男性の方はちょっと……。ここは女子修道院なので」

男、か。そんな事は言われ慣れてる。
髪は後ろに束ねただけだし、スカートなんて生まれてから一度も穿いたことが無い。服は小汚い
モスグリーンのパイロットスーツだ。
私は胸にぶら下げていたIDカードを女に投げ渡して言った。

「ジェシカ=リッケンバッカ―。女と認識されたことはないが生物学上、女だ」

女はIDカードと私の顔を交互に見ると目を丸くし、慌てて言った。

「し、失礼しました! あ、貴女がジェシカ様でしたか。話は院長から聞いております。こちらへ」

14 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 17:13:00.79 ID:12CvvQj9.net
てっきり応接間か何かに通されると思ったが、木造の狭苦しい部屋に連れていかれた。
これは懺悔室ってやつだな。
衝立の向こうに人の気配を感じ、私は言った。

「どういうつもり? 私は生まれてからの15年間、悔いることした覚えなんて一つもないけど?」
「はい……そのままで結構です。お呼び立てしたのはお仕事の依頼ですし」

相手の声は思ったよりも若く、想像していたような老婆の声ではなかった。
しかし仕事の依頼で懺悔室に通すなんて、何かヤバいものを感じる。報酬次第だが、ヤバかったら
さっさと帰ろう。帰るってのはこの星からズラかるって事だ。客の中には依頼引き受けなきゃ消す、って
輩もいるからな。
まあ相手はシスターだ。消されはしないだろうが面倒なことはお断りだ。

「だろうよ。で? 何を運べばいい? マリア像か?」
「人を、ひとり」

15 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 18:06:39.20 ID:12CvvQj9.net
ああ、来なきゃよかった。私はそう思った。
人って奴はどの荷物と比べても一番厄介なものだ。
国外逃亡、人身売買。理由は色々あるだろうが、この手の依頼を噛むと必ず血の味が舌に絡みつく。
しかし依頼人はシスターだ。何か面白い事情があるのかもしれない。私は興味本位で訊ねた。

「ふーん。目的地は? 報酬は?」
「ベルルリウス星まで。報酬はワード鉱石一つ」
「な!? なにぃ!?」 

この世でその言葉に驚かぬものは居ないだろう。
ベルルリウス星と言ったら、ここ地球から数千光年離れた惑星。ヴォルテックス・ドライブ(異次元航行)を
使ったとしてもかなり時間がかかる。しかも報酬がワード鉱石。辺境星ならそのひとつで丸ごと買えて
おつりがくるくらいの価値だ。
私は悩んだ。当然だろう。その報酬なら、血を見ることとなっても、その血を一滴残らず飲み干す事だって
できる。国外逃亡の相場はせいぜい30万レジだ。ちょっと高級なホテルに泊まれば1週間も持たずに
無くなるだろう。ワード鉱石と比べるまでも無い。
シスターは格子から顔を覗かせ、私に嘆願してきた。

「お願いです。あの子を死なせるわけにはいかないのです。あの子は……」

その顔は何かに恐れ戦いているようだった。
その時、懺悔室の外から囁くような声がした。

「院長。奴等が近づいています。<コイル>は貨物発着場で待機させました」
「ご苦労様」

くそ。初めから私にNOと言わせないつもりだったのか。

「では、ジェシカ様。貨物発着場へ急いで……」

その時、キュイっという独特なチャージ音が部屋の外に響き、続いて独特な発射音が聞こえた。
間違いない、電磁兵器だ。懺悔室の壁をぶち抜く音とガタンと人が壁にもたれ掛る音。私は咄嗟に
格子に顔を近づけて隣に居るシスターを確認した。
脇腹が綺麗にえぐられ、見るも無残な姿だ。

「お、おねがい……あの子を、コイルを……」

シスターはそう言うと、小さな布袋を格子の隙間からこちらに投げ入れてきた。
中身を確認するまでも無い。これはワード鉱石だろう。
私はそれを拾い上げると、懺悔室のドアを蹴り、外へと飛び出した。

16 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 18:32:42.57 ID:12CvvQj9.net
これはこれは。絵に描いたような<宇宙人>がそこにはいた。
体形は人間と変わらないが、顔は爬虫類のようで頭から触手のようなものが無数に伸びている。
そんな奴がリニアガンを持っているのだから、誰がどう考えても殺人宇宙生物と見るだろう。
そしてその足元には先程報告に来た若いシスターがうつ伏せで倒れていた。

「コイル、どこ。早く、早く。いっぱい殺す。教えないと、いっぱい殺す」

さっそく血の臭いか。
私は報酬のワード鉱石を胸のポケットに入れ、言った。

「コイル? さあね。ああ、ちょうどいいじゃない。人探しなら聖堂に行って神様に頼んでみたら?」
「言え! 殺す! お前、殺される!」
「知らないって、言ってるでしょうが!」

私は左手のブレスレッドのボタンを押し、それを宇宙人に見せた。
丸い閃光が相手に向かって飛ぶ。目標に当たるとそれが弾け、あたり一面が白の世界へと変わった。

「マ、マグネシウム、マイン!? クソ! お前殺す!」

宇宙人はそう叫びながらリニアガンを連射するが、狙いの定まっていないものなど当たるものか。
私はそこから走り去った。

17 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 20:33:58.95 ID:12CvvQj9.net
― レリクス成田空港。

着いたはいいが、どこもかしこも警官や警備員が騒がしく動き回っていた。
更にロビーには私の顔写真と名前がデカデカとモニターされている。
どういうことだ? さっきの一件からまだ1時間も経っていない。なのにこの包囲網。
しかしいつまでも物陰に隠れているわけにもいかない。もう依頼など関係ない。
早くこの星から脱出しないと。
その時、私の背中にツンツンと何かが当たった。

「ねえお姉ちゃん。ここで何してるの? かくれんぼ?」

振り向くとそこには、10才くらいの小さな女の子が居た。
ロングヘアの黒髪で目は少し釣り目。薄汚れた白いワンピースを着て、耳は頭の上についている。
この子、猫族のヒューマノイドか。一昔前は絶滅危惧種だったが、金持ちが愛玩用に飼い慣らして
次々孕ますものだから人口は一気に増加。近頃じゃ、この種の物乞いも珍しくない。
この子もその類だろう。

「お、お姉ちゃんは忙しいんだ。これをやるから、あっち行ってな」

私は1レジ硬貨を握らせ、追い払おうとした。しかしその子は場を離れようとはせず、私に言った。

「私物乞いじゃないから。でもこの1レジは貰っておくね。お魚いっぱい買えるし」
「そりゃ良かった。じゃああっちに行ってな」
「えーと、行くってどこへ?」
「私が知るわけないだろう!!」

イライラして叫んだ私が馬鹿だった。その声を聞きつけた警備員が私を確認し、すっ飛んできた。

18 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 21:05:38.68 ID:12CvvQj9.net
警備員の手にはネットガンではなく、ブラスターガンが握られていて、生け捕るつもりは無いらしい。
ここから宇宙貨物発着場まで約100メートル。マグネシウム・マインを使って時間稼ぎを
したところで走り抜けられる距離じゃない。
殺すしかないか。
私は胸のワード鉱石を握り締めた。依頼など知ったことか。これさえあれば宇宙の片隅でのんびりと
暮らすことができる。どこまでも逃げてやる!

「じゃあさ、お姉ちゃんはどこへ行くの?」

女の子は私に聞いた。
私は空を指さし、迷わず答えた。

「宇宙」
「わぁ! 素敵! 宇宙!」

女の子も私の真似をし、空を指さしながら目を輝かせた。
私にもこんな頃があったのだろうか。たった15年しか生きてないのに、ずいぶんババア臭くなったもんだ。
私は腰につけたブラスターを抜き、マガジンの部分で左手のブレスレッドのボタンを押した。
丸い閃光が現れ、警備員に当たるとそれが弾けた。
白の世界が持続するのはせいぜい10秒。100メートルを10秒で駆け抜けられるわけがない。
しかし私は走った。
だだっ広い滑走路の脇を通り、しばらくすると宇宙へ射出する為のカタパルトが見えた。
あれから15秒ほど経ったはずだ。もう背中から撃たれてもおかしくはない。なのに何事もなく、
私は愛機である<ポセイドン号>の前まで到着した。
まあいい。あの警備員は応援を呼びに行ったのかもしれない。もしそうなら絶好のチャンスだ。
問題はポセイドン号の周りに漂う球状のロック。ご丁寧に全長30メートルある私の船に
6つほど取り付けられていた。これは密入国船が再び飛び立たぬようにする装置だが、
そこまでするとは妙だ。私があの依頼を引き受けることを何者かが事前に知っていたってこと?
とにかく、私はロックの解除を試みた。

19 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 21:46:06.11 ID:12CvvQj9.net
さすがは、入国管理局のロックだ。電磁ジャムや透過操作は全く利かなかった。
くそっ! なんで私がこんな目に!

「お姉ちゃん。これで宇宙へ行くの?」

振り向くとあの女の子が私の船を見上げていた。
あんたには関係ない。そう思い、再び球状のロックに目をやると、そのひとつひとつが地球の引力によって
地面に落ちた。
何が起こったのか解らなかったが、助かった。私はハッチを開けて乗り込もうとする。

「ジェシカ=リッケンバッカ―! 動くな! 貴様を殺人の容疑で逮捕する!」

20 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 22:00:12.71 ID:12CvvQj9.net
これまでか。見るとざっと30人を超える警官がブラスターを構え、船の周りを包囲していた。
だいたい殺人の容疑ってどういう事だ? 私は何もしていない。しかしここまで大ごとになってるってことは
何者かが情報操作してるってこと。弁明なんてものは通用しないだろう。
突然、無実の者にどんな裁きを下すか、この目で見てみたくなった。こんな人生も悪くないだろう。
私は手に持ったブラスターを投げ捨て、両手を挙げた。

「お姉ちゃん。宇宙へ行かないの?」その猫族の女の子は私に問う。
「ああ。私はただの運び屋で、依頼が無きゃ宇宙へは行かないんだ」
「ん。それなら……」

少女はポケットから私があげた1レジ硬貨を取り出し、それを見せて言った。

「それならこれで、私を宇宙へ連れて行ってください!」

女の子は頭についている耳をぴんっと立て、眼をキラキラと輝かせながら空を指差した。
私が初めて自分の船で宇宙へ出た時も、こんな顔をしていたんだと思う。
私にもこんな頃があったんだな。
私は咄嗟に女の子を抱え込み、その首筋にナイフを当てて叫んだ。

「カタパルトを解除しろ! この子がどうなってもいいのか!?」

21 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 22:05:42.94 ID:12CvvQj9.net
船に乗り込み、計器をチェックする。良かった、内部は弄られていないようだ。
外では警官達が大型のリニアカノンを構えて私の船を狙っている。飛び立つ瞬間を狙って
撃ち落とす算段だろうが、カタパルトから射出された時点で亜高速まで達するものを
簡単に当てられぬものか。
バックシートでは船内をキョロキョロ見回している、猫族の女の子が座っている。
確かにこの子のおかげで助かってはいるが、この子自身は平気なんだろうか。

「お前、大丈夫なのか?」
「何が?」
「宇宙に出たら、何年もここに帰ってこられないぞ?」
「親? 生まれた時からいないし」

なんだ、この子も私と同じ孤児か。
私は操縦桿を握り、船を発進させた。
女の子は続けて私に言った。

「もともと孤児院に居たんだけど、いろいろあって今は修道院で生活してるんだよ」
「え?」

船は急な加速を見せ、カタパルトを滑る。
何か妙な予感がする。恐る恐る女の子に訊ねた。

「私の名前はジェシカ=リッケンバッカ―。お前の名前は?」

船はカタパルトを離れ、亜高速に達した。

「コイル」

ああ、目的地はベルルリウス星、か。


『運び屋ジェシカと黒猫コイル』 第一章 おわり。

BGM: Mr.Children 「箒星」

22 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 22:15:21.22 ID:12CvvQj9.net
第一章あとがき。

書き込みタイムを見てもらえば分かると思いますが、即興で書いたので誤字脱字などの
粗がかなりあります。
お約束の部分、というか展開は使い古されたものを使ってます。
即興で書いたにしては伏線を埋め込んだりして、書いてる方は面白かったかなw

実はこの話はベースがあって、数年前書こうとしてた作品が元です。
で、さらにその話にもベースがあって、あるマイナーなプロの漫画作品です。気付く人いないだろうなぁ。。。。

また時間があったら勝手に続き書きますんで、スレ主さんごめんなさいww
では。

           
                                                 ムッシュ52型改

23 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/02(土) 22:34:33.85 ID:12CvvQj9.net
×亜高速
○亜光速

24 :ぺこたん ◆AqK2rHaVtU :2016/01/19(火) 22:36:24.03 ID:VEtHSRdE.net
続きマダー?

25 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/22(金) 23:17:51.06 ID:qGXDMqee.net
待ってたのかよw

26 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 14:55:48.86 ID:7XIqOxxN.net
というよりこの話、俺の知識不足によりとんでもないミスを犯している。
まず、シスターは告解(いわゆる懺悔)を聞くことは許されていないのだ。
女子修道院に懺悔部屋(正しくは告解部屋)と言われているものが存在するかどうかもあやしい。
今、最初から書き直してるけど告解部屋から物置に直してから、やり取がおかしくなり
その後は大幅な変更がある。
いやあ、勢いで書くとこうなるんだよねw

まあ・・・・いいか。ほかでUPするときは直しておこう。
じゃあ続きを。
言っておくけどかなり長いからね。知らないよ?後でテストするからな。
マダー?とか言わなきゃよかったとか思うぞ。

27 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 14:57:13.93 ID:7XIqOxxN.net
 太陽系を出ると銀河連邦政府が発行した星系図が頼りになる。
 なんせ銀河系だけでも2000億個以上も星があるのだから、迷子になったらシャレにならない。
 ヴォルテックス・ドライブ(異空間航法。簡単に言えばワープ)のエントリーポイントも決まっているし、航行路もその近くを選択しないと確実に遭難する。
 私達は地球を出てから既に2回のヴォルテックス・ドライブを行い、エントリーポイント付近にある宇宙ステーションで食事をとっていた。コイルはレストランの中を走り回って他の客に散々迷惑をかけた後、私の所に戻ってきて言った。

「ねージェシカー。私つまんなーい」

 よく言うよ。宇宙に出たばかりの時は<お星さま綺麗〜!>なんてはしゃいでたクセに。もう飽きたのか。

「だろうね。宇宙なんて何も無いつまらない所だよ。ほら、さっさと食べてまた出発」
「だけどさー、宇宙ってなんかもっと楽しいとこかと思ってたのにさー……」
「いいからさっさと食えっての!!」

 楽しい所か。
 宇宙は想像以上に過酷で冷たい。過去も未来もすべて飲み込んでしまう、暗く広いだけの空間だ。
 楽しい所ではないんだよ。

 頬を膨らまし、愚図るコイルをバックシートに座らせて再び船を発進させようとした。
 しかし、感覚的にだったがエンジンの調子がおかしい事に気付いた。このポセイドン号はかなりの老朽船で、3年前に破格の値で手に入れたものだ。そろそろガタが来てもおかしくはないが、ここでくたばってもらっては困る。

「一度マルスの所へ寄って診てもらうか。ここからそんなに遠くないし」

 エントリーポイントに船を誘導しようとしたその時、船内のモニター全てに警告文字が並んだ。
 さっそく故障かと思ったが、その文字は停船命令だった。

『認可番号 5363571−β ポセイドン号。その場で止まれ!」

 

28 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:01:26.26 ID:7XIqOxxN.net
まずいな。銀河連邦保安局のパトロール艇か。
間もなく、私の船はマグネットハーケンを撃ち込まれて身動きの取れない状態になってしまった。  
警告文字の並んでいたモニターにパトロール隊員の男の顔が映った。

『お急ぎでしたかぁ? あなたの船、透過捜査したら片方のエンジンが出力不足みたいですよぉ。
このままV・Dしたら危ないですよぉ? ちょっとIDを拝見しますけどぉいいですかぁ?』

ついてない。いや、まだラッキーなのか。地球での一件は銀河に広まってないみたいだ。
私はIDを送信し、平静を装った。

29 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:03:02.67 ID:7XIqOxxN.net
『ジェシカ=リッケンバッカ―さんね。ほう、16才。随分とお若いですねぇ。で、どこまで行かれるのですかぁ?』
「いやぁ、姪に頼まれちゃってね。ちょっと銀河の遊覧航行を……」
『ほう、壊れかけの貨物船で……ですかぁ?』
「あ、あははは。壊れかけって。言ってくれるなぁ」
認可番号を調べれば地球の船だという事がバレてしまう。そうなれば地球での一件もすぐにわかるだろう。下手に勘繰られなければいいが。とにかく上手くはぐらかせてエントリーポイントを潜ればこっちのものだ。

「ねえジェシカー。何やってるの? 早く行こうよー。宇宙つまんなーい! もっと面白い所へ行こうよー!」

コイルは後ろから私に抱き付き、突然愚図り始めた。

『!? 猫の耳……その子が姪御さんですかぁ? その子のIDも拝見したいのですがぁ』
 
しまった! 私達を特定する材料が揃ってしまった! それに追い打ちをかけるようにコイルがモニターに向かって、舌を出して言った。

「ベーッ! 地球のアニマノイドにIDなんてあるわけないじゃない! 知らないの?」
「地球の、ねぇ。君、お名前は?」
「私? 私コイ……」

ああもう! ついてない!

「コイル! 無限潜航するからそのまま掴まってて!!」
「え? 何? きゃぁぁぁ!」
船はその場で亜空間に沈む。無限潜航は文字通り宇宙空間から亜空間へ無限に潜航することを言う。
しかしデメリットの方が多く、海賊や冒険家、そして私のような未認可の運び屋以外はあまり行わない。
大きな理由は亜空間ではコンパスが全く働かない事。それゆえ浮上した後に遭難する確率が高い。

『待て! この宙域での潜航は危険だぞ!!』

パトロール隊員は怪しいと思うより先に、私達の心配をしてくれているみたいだ。やめたところで
私達が捕まる運命が待っている。ここで引き返すわけにはいかない。ハーケンを切り離す振動が船体から
パイロットシートに伝わってきた。
問題は壊れかけのエンジンだ。浮上できなければ遭難どころではない。

「ふえぇぇ……ジェシカ〜。変な感じするぅ。体が別の所にあるみたい〜」
「いいからしっかり掴まってろ!」

 私は運を天に任せることなんてしない。神なんてこの世に存在しないのだから。

30 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:07:56.79 ID:7XIqOxxN.net
自分が今、夢の中に居るって事は判っている。定期的に見る、嫌な夢の中だ。
私はその中で何度も何度も目を覚まそうとするが、最後のあの場面、あの言葉を言うまで
それは終わらない。実際にあった幼い頃の記憶を、夢の中で何度もトレースする。

 ―― 誰がここまでやれと言った!
「だっていっぱい頑張ったよ? ねえ誉めてよ。あの子みたいに誉めてよ!」

 ―― 銀河連邦保安局も長老評議会もこの件に関しては介入できないとの報告が……。
「お願い! ねえ聞いてよ! 誰か! 私の言う事を聞いて!」

 ―― 引き取る親戚もいないんだって。可哀そう。 
「お願い。本当に居るなら答えてよ。ここに居るんでしょ!? いつも見てるんでしょ!?
それなら答えてよ! 私はどこへ行けばいいの!? ねえ助けてよ……ここに来て助けてよ……」

「……シカ……ジェシカ……ジェシカーー! こんな所で寝てると風邪ひいちゃうよー?」
「ん……あ、ああ。コイルか」

目を開けるとそこには私の膝に跨り、顔を覗き込んでいるコイルが居た。
いつの間にかパイロットシートに座ったまま寝てしまっていたようだ。今回はコイルのおかげで
最後の言葉を言わずに目が覚めた。その為か寝覚めは凄くいい。
あの嫌な薬を飲まなくってもいいくらいだ。

31 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:10:16.68 ID:7XIqOxxN.net
無限潜航から上手く浮上出来たものの、現在地が全く分からない。完全に遭難してしまったようだ。
救難信号を出してもいいが、来るのは銀河連邦保安局の救助船。逃げて遭難して救助されて
捕まるなんて、オモシロ銀河ニュースのネタになりそうな展開は御免だ。
とりあえず目印になる星系を見つけて、航路を確定させなくてはいけない。頼りになるのは船に
積んであるコンピューターだけだ。神様なんていやしないんだから。
忙しく計器をチェックする私の横で、コイルは相変わらず暢気なものだ。

「うーん。どれを見ても同じお星さまにしか見えないよねー」
「肉眼じゃ同じに見えるさ。コンピューターが星の明るさと距離を測って、特定しながら実際の
銀河星系図に当てはめていく。まあコンピュータ任せだ。気長に待とう」
「ふーん。よくわかんない。どうでもいいから早く面白い所へ行こうよー」
「ああ、そうだな。私もさすがにこの景色は見飽きた」

私は内心焦っていた。この銀河に何通りの星の並び方があるのか見当もつかない。
コンピューターが弾き出した航路を進んだとしても、それが正解だとは限らないんだ。それに
心配なことがもう一つ。海賊船だ。相手が何を狙うかは出くわすまで判らないけど、タダでは
済まない事は確かだ。
私もコイルも一応は女。殺されるより辛い日々が続くだろうな。

突然、船体が大きく揺らいだ。船内に響く警告音。モニターを確認すると左舷に大型ハーケンが
撃ち込まれていた。

「しまった! 海賊か!? クソ! 蓄電をケチらずにソナーを作動させておくべきだった!」 

32 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:13:19.15 ID:7XIqOxxN.net
慌ててエンジンをかけたが出力不足で船が思うように進まない。
それどころか船体がずるずると左にスライドする。姿勢制御用スラスターで……。それでは意味が無い!
左舷のモニターを見ると、私の船の倍はあろうかという物体が徐々に近づいているのが見える。いや、
こちらが引き寄せられているのか。
相手が海賊ならば乗り込んできた所を殺すしかない。私は腰に下げていたブラスターガンを握り締めた。
その時、スピーカーから年老いた男の声が聞こえてきた。

『なんじゃ、通信回線が生きていているじゃないか。生体反応有りじゃな。遭難船か? ん? 
 認可番号 5363571−β ……この船はもしかして!』

白く長い髭を蓄えた老人がモニターに映し出された。私は嬉しさのあまりモニターに顔を近づけて叫んだ。
 
「マルス! ねえ! マルスでしょ!?」
『ぶぁっはっはっ! スクラップ釣りをしとったらジェシカが釣れよった! こりゃ愉快じゃ!
それに何じゃ。ここはお前の庭みたいな所じゃないか。遭難ごっこでもしとったのか?」

顔が急に熱くなった。何たる失態。
遭難したと思い込んでいただけで、実際はそれほど離れていない場所に浮上したのだった。
コイルはモニターを覗き込み、不思議そうに言った。

「ジェシカー、このお爺ちゃん誰? 神様?」

私は断じて、神などに感謝しない。感謝しないぞ。

33 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:18:29.53 ID:7XIqOxxN.net
※ ここから大幅な変更点がありますが、2ch地下スレなので軽く考えてうpします。
  とりあえず変更前の設定から繋がる所まではうpしますが、その後は全く繋がらないので
  未完となります。
  まあそこまでも、たどり着けるとは思えんがなwふふふ。

34 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:21:38.92 ID:7XIqOxxN.net
 ―― 惑星ラミュー。

宇宙戦闘の舞台になった場所らしく、その星の周りには宇宙基地や戦艦、戦闘機の残骸が漂っている。
それゆえ、この星にはジャンク屋が多く住み着いていた。
マルスという老人もそんなジャンク屋の一人だ。70才はゆうに越しているというのに、
中古船の販売やメンテを一人でこなしている。まあ作業は全部ロボット任せだろうけど。
私は3年前にここ<マルス商会>の通販で船を買った。それ以来メンテはマルスに任せきりだ。
 
惑星ラミューの環境は悪くない。人工太陽があり、大気も大戦前の地球とほぼ同じだと言われている。
この星に降り立つとコイルはすぐにはしゃぎ回った。

「すごい! ここ全然息苦しくない! 空が青〜い! ねえ見てジェシカ! 川が流れてるよ!」
「あんまり遠くへ行かないでよー! 迷子になっても探さないからねー! 置いてっちゃうからねー!」
「はーい! あ、でもここにずっと居てもいいかもー! お魚いっぱいいそうだしー!」

コイルは私が預かった"ただの荷物"なのに。どうしてこんな保護者みたいな立場にならなきゃ
いけないんだろう。報酬のワード鉱石だって落としてしまったし、それなら本当にコイルをここに
置いていってもいいのかもしれない。私が最後までやり遂げる必要なんてどこにも無いんだ。

―― お願い!あなたなら、きっと……。

頼りにされた理由が解らない。なぜ私なのか。そしてベルルリウス星に行く理由は一体何なのか。
その時、マルスが声を掛けてきた。

35 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:23:36.34 ID:7XIqOxxN.net
「大変じゃのう。その年でもうお母さんか」
「ば、馬鹿言わないでよ! 私まだ16才だし! あの子はまだ10才!」
「なら母親はどうした?」
「ああ……あの子、孤児なんだってさ」
「ならちょうどいいじゃないか。お前が母親になればよかろう。ああいう小さい子には母親……
家族が必要じゃよ。年は関係ない」

母親が必要、か。
私にも必要だったのだろうか。

「冗談じゃないわ。それより私の船、どれくらいで直りそう?」
「直すのは無理、じゃな」
「無理って! いつもみたいに直してよ!」
「無理なものは無理じゃ。年式も古いし、手に入るパーツは限られておる。エンジンだけじゃない。
度重なるヴォルテックス・ドライブでフレームが歪んでもう限界じゃ。お前、だいぶ無理して使って
おったしな」

この船を手に入れてからの3年。夢中で宇宙を駆け回った。小娘の私が広い宇宙で生きていくには
それしかなかったんだ。そうか、この船は我武者羅な私に無理して付いてきてくれてたんだな。
私はポセイドン号の船体を撫でた。
マルスが私の顔を覗き込み、自分の髭を撫でながら言った。

「中古の船。今ならお安くしとくよ?」
「ったく! 感傷に浸ってんだから、薄ら笑いで商売っ気出してこないでよっ!」

 まったく。デリカシーの無い爺様だ。

『あの……もしよかったら……』

 突然、どこからか男の子の声が聞こえた。

「マルス。あんたいつの間に従業員雇ったのよ。今、男の子の声が聞こえたけど」
「ん? 何を馬鹿な。そんな余裕はないよ。それに、この辺りにワシ以外の人間は住んでおらん。
中古の船とスクラップの山があるだけじゃよ。気のせいじゃろ」
「ふぅん……」

 私は幽霊は信じない。断じて信じない! 

36 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:26:19.59 ID:7XIqOxxN.net
次の船を買わなきゃ、ここから動くこともできない。その日から私達はマルスの家に泊まることになった。
家と言っても木造二階建ての掘っ建て小屋で、周りにある膨大な数のスクラップから見れば豆粒みたいな
家だ。 
夕食時。コイルは泊めてくれるお礼にとマルスの前で歌とダンスを披露した。マルスも酒が入り、
ハーモニカを取り出してダンスに合わせて陽気な曲を吹く。コイルはまるでお爺さんの家に泊まりに
来た孫みたいだ。
私はコイルの下手なダンスとマルスのハーモニカに、一時だけ心を和ませていた。
 
コイルははしゃぎ疲れたのか、私の膝を枕にスヤスヤと寝てしまった。
マルスは暖炉に薪をくべながら、私に話しかけてきた。

「その子、アニマノイドだな。人嫌いなお前がそんな子を連れてるってことは、何か事情があるようじゃな」
「ああ……」

私はマルスにこれまでのいきさつを話した。私はおしゃべりな方ではないけど今回は特別、
この事を誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
マルスは話を聞き終わるとそれについて何も語らず、黙って端末を取り出した。そして私の前に
3Dスクリーンを展開させる。そこには光速無限潜航船の映像が浮かび上がった。

「今ここにある中古船は5隻。バーミリオン社製モビーディック、スナップハント社製シルフィ、
それと……スティングレイ。ああこれはダメじゃ。ベルルリウス星までは持たぬ……」

どの船も今まで私が乗っていたポセイドン号より年式が若く、パワーも段違いだ。だけどこれらは
中古船と言えど値が張るものばかりで、私の予算では到底手が出ない代物だ。

37 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:28:38.06 ID:7XIqOxxN.net
「マルス、せっかくだけど……」
「値段か? 気にするな。閉店セールじゃ。どれも半値以下でお前に譲ろう」

 マルスは暖炉の火の様子を伺いながら、続けた。

「別に恩を着せようとか、お前を気の毒に思っての事じゃない。ワシももう年じゃて。
ここらで引退しようかと思っておったところじゃ。在庫が掃けるならそれに越したことは無い」

ポセイドン号だけじゃなく、マルスも引退するのか。私はまだ16才だ。私自身もいつか引退する日が
来るんだろうな。今は想像もつかないけど。
しかし渡りに船とはまさにこの事だ。私はスヤスヤと眠るコイルの頭を撫でながら、
空中スクリーンを指でスライドさせて船の画像を見ていた。するとある画像に目が止まった。
船というより、船体に無数のスクラップが張り付いている。全長300メートルのタダの巨大なゴミだ。
とても動く物とは思えない。これも売り物なのか?

「ああ、それか。そいつは駄目だ。アルタイル星系で拾ってきたものだが、張り付いている無数の
スクラップがどうしても剥がれぬ。もし剥がれて動いたとしても、そいつはバーネット社製じゃしな」
「バーネット?」

バーネット社は銀河のどこにも存在しない、謎多きメーカーらしい。600年前のアルタイル星系戦争で
その名を馳せていたが、戦争終結と同時に忽然と姿を消した。マルスも掘り出し物として拾ってきたは
いいが扱いに困り、オブジェとして売り出していた。もちろんこんなスクラップの張り付いた300メートルを
超える巨大な物に、買い手は付かなかったみたいだけど。
当然、バーネット社の製品データーはすべて抹消されている。壊れたら最後だ。
動かないなら論外。私は再び、他の船を物色した。

38 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:33:23.83 ID:7XIqOxxN.net
※再びムッシュ解説

ここまでざっと推敲して、<〜だった><〜だ><〜した>が多い事に気付く。
クドいので変更中。
この後現れる船の大きさと、登場する場所。かなり無理があるかな。
300メートル。実際測ってきましたwww デカいってもんじゃありませんww
それに乗り込むまでで、2ch版は終了です。


では続きを。

39 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:36:07.24 ID:7XIqOxxN.net
その日、私はコイルと一緒に近くの川で魚釣りをしていた。

「ジェシカー。今日は全然釣れないねー」
「ああ。私の場合は今日<も>だけどな。あはは、晩飯はお前の双肩にかかっているぞ〜」
「もー! ジェシカも釣ってよ〜!」

マルスの家に居候してから既に2週間が経っていた。
しかし不思議と苛立ちは無い。早く船を決めてこの惑星から発たねばならない筈なのに。
この川の流れの様に静かに時間が流れ、美味しい空気を思う存分に吸う。柔らかく
心地の良い場所。地球であんなことが無かったら、この場所でずっと暮らしていたかもしれない。
近くでバギーの止まる音がした。町での野暮用を済ませたマルスが帰ってきたようだ。

「おい、ふたりとも! 急いで家に戻れ! 話がある!」

慌てたようなその声に、私達は魚釣りを切り上げて家に戻った。

40 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:37:18.75 ID:7XIqOxxN.net
マルスは深刻な顔で私に言った。

「すぐにここを発った方がいい。刑事らしい男が町中、お前等を探していたそうじゃ。
銀河ニュースでもかなり報道されている。船の代金ならいつでもよい。今すぐ好きな船に乗っていけ」

柔らかく心地の良い場所、か。結局私にはそんな場所は無いんだな。
私が身支度をしていると、コイルがつまらなさそうに話しかけてきた。

「もうちょっとここにいたいな、私」
「……」
「だってさ、空気もいいし、お魚だっていっぱいいるし、それに、私マルスお爺ちゃんが大好き!」
「もう、ここには居られないんだ。行くぞ」
「だって……マルスお爺ちゃんは……」
「だってだって、うるさい!!」

私は余程凄い顔になっていたんだろう。コイルは怯えたように物陰に隠れてしまった。
だって……か。私も誰かに言ってみたいよ。
私達はマルスにバギーを借り、中古船が停泊している場所へと急いだ。刑事が来たら上手く誤魔化すからと、
マルスは家の前で見送ってくれた。
人との別れなんてこんな感じであっさりしているもんだ。

41 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:39:25.94 ID:7XIqOxxN.net
その場所に到着すると、目当ての船を探した。

「バーミリオン社製モビーディック。これか。実際見ると小さいもんだな。でもこれなら……」
「これなら俺から逃げられると?」

船の陰からひとりの男が出てきた。
金色の短髪でトレンチコートの男。歳は30半ばくらい。しゃくれた顎には無精髭だ。
手にはブラスターガンを持っている。しかしどこかで見たことのある顔だな。

「残念だったな、ジェシカ=リッケンバッカ―。貴様の旅はここでお終いだ」
「ああ、思い出した。お前確か空港で私の名前を叫んでた男だよな。
 遠路遥々無実の私を捕まえに来たか。地球の警官のくせに。銀河連邦保安局に任せとけばいいものを」
「おいおい、俺がその銀河連邦保安局の保安官だよ。お前が無実だってことは分かっている。
ああでもしなきゃ空港全体に警備を布けなかったんだ。入国管理局は頭が固いからな。許せ」

そうか。こいつがあんな大舞台を作りやがった"演出家"か。地球の警官だと思っていたが、銀河連邦
保安局の人間だったとはね。しかし何故地球に居た? そして私を追いかけてくる理由は何だ?
刑事はブラスターガンを下し、ホルスターに収めながら続けた。

「心配することは無い。その子をこちらに引き渡してくれればお前がどこに行こうが、我々は干渉しない。
船が壊れたみたいだな。なんなら地球へ帰る船もこちらで手配しよう」

コイルがその理由か。私はさらなる理由を確かめる為、腰のブラスターガンを抜いて銃口を向け、
刑事に言った。

42 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:41:27.07 ID:7XIqOxxN.net
「嫌だと言ったら? コイルを連れていく理由は? 答えてよ」
「お前を殺してでもその子を連れて帰るだけ。理由はお前に教える必要はない。
そのブラスターで俺が死んだとしても、それは変わらない。この宙域にパトロール艇を
待機させてあるからな」

万事休すか。そうだな。私がコイルを連れていく理由は何も無い。取引相手は銀河連邦保安局だ。
悪いようには扱わないだろう。そう思ってブラスターガンを収めようとしたその時、遠くで電磁兵器の
発射音が鳴り響いた。それはマルスの小屋の方角から聞こえた。

「お爺ちゃん!!」コイルはこの世の終わりを見ているかのような顔で叫んだ。
その言葉に私は無意識のうちにコイルを乗せて、バギーを走らせた。

「おいジェシカ=リッケンバッカ―! 待て!」

保安官の言葉なんか知ったことか。撃つなら撃つがいい。

43 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:43:24.89 ID:7XIqOxxN.net
その小屋のドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは暖炉の前でロッキングチェアに座った
マルスの姿だった。見慣れた光景。しかし、マルスの腹は無残にも撃ち抜かれていた。

「おう……ちょうどよかった……。その子に渡しそびれたものがあっての……」
「マルス!」「お爺ちゃん!」
 
 私達が駆け寄ると、マルスは小さな小箱をコイルに手渡した。綺麗にラッピングされ、リボンも付いている。

「ワシの夢を叶えてくれた……感謝の気持ちじゃ。照れくさくて……渡せんところじゃった。お前にもな、ジェシカ。
船は……ワシからのプレゼントじゃ……代金はいらんよ……それが言えんかった」

私達は何もしてないのに! 叶えた夢ってなんだよ! 何が感謝だよ!

「ジェシカ……ヤバイ依頼を噛んだな……。じゃが……その子は守れ。その子には母親が……
家族が必要……」
「もういい! もう喋るな! これくらいの傷ならまだ助かる!」

もう助からない。気休めだ。誰の為に。何の為の気休めだ。

「ワシを撃った宇宙人には……お前等が街へ行ったと嘘をついた……。時間が無い。さあもう行け」
「だ、だって……マルスが……こんなんじゃ」
「だってじゃない……。そうじゃ……コイル……それは……悲しい時には……」

マルスの腕が力無くだらりと下がった。
私は今にも泣きだしそうなコイルの腕を取り、小屋から飛び出した。
外にはさっきの顎髭の保安官が腕組をして立っていた。

「どうだ。その子に関わると死人が増えるぞ? いいのか? お前の周りで、また大勢の人が死ぬ」
「な、何を言っている!?」
「6年前の、あの時の事だよ」

私の過去も、全て知っているのか。
嫌な過去だ。思い出したくもない! 私のせいじゃない!
空が回る。吐き気がする。あの時の事を思い出すといつもこれだ。
私は腰のポーチから薬を取り出し、それを飲み込んだ。吐き気とめまいはすぐに治まった。
クソ、嫌な薬だ。

「それなら今すぐ私を殺せばいい。命がある限り、私は行きたい所へ行く」

保安官は黙って私の目を見ているだけだった。 
私達は再びバギーに乗り込み、船へと向かった。

44 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:48:17.76 ID:7XIqOxxN.net
※訂正
『それは……悲しい時には……』
『それは……寂しい時には……』

『マルスの腕が力無くだらりと下がった。』
『マルスの腕が力無くだらりと下がり、銀色に輝くハーモニカが床に落ちて転がった』

45 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:50:54.07 ID:7XIqOxxN.net
再び中古船の停泊場に着くと、その上空に見たことのない葉巻の形をした宇宙船が4隻浮かんでいた。
不確かだが、マルスを殺した宇宙人の船である可能性が高い。
そして私達の目の前には、教会でシスターを撃ち、マルスを殺したであろうあの宇宙人がいた。
宇宙人は野太い声で言った。

「コイル、渡せ。はやく、はやく。殺すぞ。いっぱい死ぬぞ」

何とか船に乗り込めれば。しかし目当ての船は宇宙人の真後ろだ。
いつの間にか顎鬚の保安官は私の隣に来ていて、言った。

「ありゃアルタイル星系のビーク星人だな。知能が低く、同時にふたつの目標を認識できない。
急所はみぞおちだ。それ以外、倒す方法は無い」

その時、なぜかコイルが口を大きく開けて、顎鬚の保安官に向かってシャァー! と威嚇し始めた。
コイルのそんな姿を見るのは初めてだ。一体どうしたんだ。
顎鬚の保安官はゆっくりとブラスターガンを抜き、また私に話しかけてきた。

「俺が始末してやってもいいが、条件は……言わなくても分かってるよな?」
「ふん。誰に向かって言ってるのよ。あなたに頼まなくたって」

私はブラスターガンを素早く抜いて、銃口をビーク星人のみぞおちに向けた。

「待ってジェシカ!」

 コイルがそう叫んだが、私は迷わず引き金を引き、見事その腹を撃ち抜いた。

46 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:53:13.11 ID:7XIqOxxN.net
「ぐぅぅ。やったな。お前。お前。やったな。必ず殺す!」

倒れないじゃないか! この保安官、嘘をついたな!? 
顎鬚の保安官は即座に宇宙人の頭部を撃ち、ブラスターガンをくるくると指で回しながら
ホルスターに収めた。ビーク星人はその場に力無く倒れた。

「脳みそが詰まってるところが急所に決まってんだろ。ビーク星人の腹部は再生能力がある。
お前が単純な奴で助かったよ。隙を作ってくれてありがとうよ。約束だ。コイルを渡してもらおうか」 

約束した覚えはないが、コイルが安全な場所へ行けるならその方がいいのかも知れない。
私はコイルの背中をそっと押して、言った。

「ほら、行きな」
「え? ジェシカ……?」
「いいから、あのおじちゃんに付いていけ。私と一緒に居るとろくなことは無いから」

その時、空に浮かんでいた宇宙船から太いレーザー光線が降り注いできた。その一つが
目当てとしていた船、<モビーディック>に当たり、大爆発を起こした。こいつはヤバイ。
どれでもいいから他の船に乗り込むか? いや、無理だ。乗った途端に撃ち抜かれるだろう。

『僕に乗って!』

男の子の叫ぶ声が聞こえた。確かにあの時聞いた声だ。幽霊か? こんな時に!
と同時にコイルが何かを指差して叫んだ。

「ジェシカ! あれ!」

47 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 15:56:43.93 ID:7XIqOxxN.net
見ると積まれたスクラップの隙間からエメラルドグリーンの光が漏れ、それが点滅していた。

『船を探しているんでしょ!? それなら僕に乗ってください!』

スクラップの一部が吹き飛ぶように剥がれ、ハッチらしきものが跳ね上がって入り口が見えた。
ああ、これはスクラップの山なんかじゃない。マルスが言っていた300メートルの巨大なオブジェ、
バーネット社製の宇宙船だ。しかし乗ってくれと言われても、そんな得体の知れないものに
すぐ乗り込むわけにはいかない。
レーザーは次々に船に当たり、爆発はしなかったもののどれも使い物にならなくなった。
顎鬚の保安官は叫んだ。

「お前ら! ここから離れるぞ! 森へ逃げ込め!」

確かにここにいるのはヤバイ。私はコイルの手を引き、その場から離れようとした。その瞬間、
レーザーがそのスクラップの様な船に徐々に近づく。

『うわぁぁ! ア、アクティブシールド20%で展開! 反射角3度!』

レーザーはスクラップに当たったかと思うと、ほぼ真上にそれを跳ね返した。
 
『僕は銀河あるどの船よりも強いんだ。魚だって、イルカだって、シャチにだって負けない!
だから僕に乗ってください!』

宇宙を往く船なのに、魚やイルカやシャチにも、か。面白い。こんな船にはめったにお目に
かかれないだろう。どうせ私は宇宙でしか生きられないんだ。いや、宇宙ですら居場所がなく、
彷徨い続ける運命なのだろう。それなら、こんなおかしな船に乗って宇宙で死ねるなら本望だ。
 しかしコイルは私とは違う。やっぱりこんな小さな子に宇宙は無理だ。

 ―― その子は守れ。その子には……母親が……家族が必要……。

マルス。私には無理だよ。私だって家族がどんなものか、知らないんだから。
私はコイルの手を放し、そのハッチへと走った。
厄介払い。そんな言葉が頭に浮かんだ。
私はただ、面倒なあの子を捨てて逃げるだけじゃないのか?
違う。それは違う! 面倒なんてそんなことは無い! 私はただ……。

48 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:01:23.49 ID:7XIqOxxN.net
「ジェシカー!!」

コイルはそう叫びながら私を追ってハッチの所まで来た。乗り込もうとする私の袖を力いっぱいに
引っ張る。私は振り返ってコイルに優しく言った。

「ほら、あのおじさんに付いていきな。あっちの方が安全だよ」
「知らないおじさんに付いていくなって、シスターに言われたもん! 
それに、嘘をつくおじさんなんか大っ嫌い!」
「もう1レジ分、宇宙を楽しんだろ? それに、お前は宇宙はつまらないって言ってたじゃないか」
「宇宙はつまんない! つまんないよ! でも!」

コイルは私に抱き付き、言った。

「ジェシカのいない世界はもっとつまらないと思うから! 一緒ならもっと楽しい世界へ行けると思うから!
 だから私、ジェシカと一緒に行く!」

私はその弱々しい力に負け、コイルを抱きしめながらよろよろと後ろへ下がって内部の壁にもたれ掛った。
同時にハッチは静かに閉じられる。
私はコイルに何もしていない。ただあんたを地球の外へ連れ出しただけだ。
コイルは私に何もしていない。ただ私の周りで笑ったり、怒ったり、拗ねたりしていただけだ。
ただそれだけなのになぜ、コイルは私から離れようとしないのだろう。
コイルが傍に居る事がなぜ、こんなにも嬉しいのだろう。
船はゆっくりとラミュー星の大地を離れた。

49 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:05:56.76 ID:7XIqOxxN.net
大気圏外に出ると、4隻の船は私達の周りを取り囲んだ。コイルの奪取が目的なら派手な攻撃は
仕掛てこないはずだ。そしてそこから少し離れた所に銀河連邦保安局の船が10隻ほど待機している。
バーネット社製の船内は特に奇抜な物はなく、地球の技術とさほど変わらないように見える。
というより無駄なものが一切無いシンプルな造りだ。

『僕の名前はルーシェです。よろしくお願いします。あ、操舵室はこちらです』

廊下の光に導かれ、私達はそこにたどり着いた。
こんな広い操舵室を見るのは生まれて初めてだ。全長300メートル程の船だから、
当然と言えば当然なのか。前に3席、中央に1席、後ろの高台に1席ある。とりあえず私は5席あるうちの
操縦桿らしきものの付いた先頭のシートに座ろうとした。

『あ、今はそこに座っても意味ないです。キャプテンシートに座ってください。
そこでも操縦できますので。別に右行け左行け、って言ってくれれば動きますけど……』

随分アバウトな操縦方法だ。しかし面倒じゃなくていい。私は言われた通り、一番後ろで高台の席に座った。コイルはオドオドキョロキョロと辺りを見まわした後、私の隣、その床に座った。

『あー、ネコさんは中央の席に座ってください。あなたは私の声を拾ってくれている人。
サーチャーの素質があるから……』

するとコイルは頬を膨らませて言った。

「ネコさんって呼ばないでよ! それにどこに座ろうが私の勝手でしょ!? フーッ!!」
『ひぃぃぃ! ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! そこでいいです!』

何なんだこの船の"男の子"は。

50 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:08:02.93 ID:7XIqOxxN.net
それよりこの状況を何とかしないと。この船の航行能力はまだ未知数だ。どこまでやれるか……。
その時、操舵室の中央空中にこの船の3D映像が浮かび上がった。そして宇宙船から一斉に
ハーケンが射出され、この船を覆っているスクラップに突き刺さる情報が映し出された。まさに
ヤバイ状態なんだが、この船、ルーシェ君はどう取る。

『ああ! 何か刺さりました! ど、どうしましょう!』

おい。どうしましょう、じゃない。私は声を荒げた。

「とにかくここを離れたい! この船は光速航行まで何秒かかるの!?」
『確か内部に耐Gエーテルを充填するまで5.43……だから、10.6736285……』
「ああもう! 10秒だな!? よし! 銀河系の星系図を出して! 準備が整うまでに
行き先を決めておこう」

私の目の前に半透明のスクリーンが現れ、星系図が表示されるが何が書いてあるのかさっぱりだった。
ひょっとして古代文字か?

『ジェシカさん凄いですね! 600年前のアルタイル語が読めるなんて!』

いや、読めないし。
行き先が設定できないなら光速航行は意味が無く危険だ。突っ走る途中に何があるのか
判らないのだから。それに長時間光速航行を行えば、下手をしたら私は数百歳の若いお婆ちゃんに
なってしまう。しかしここは適当に目標を決め、一か八か行くしかない。いや、まだ問題がある。
船体にくっ付いている膨大な数のスクラップだ。どう考えてもこれでは安定した航行は無理だ。

「ルーシェ。スクラップを付けたままでの光速航行は無理だよね? どうするの、これ」
『あ、いけない! 忘れてました。大戦中から偽装したままでした。今パージしますね!』

51 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:10:59.43 ID:7XIqOxxN.net
大戦中ってなんだ? 偽装ってなんだ? そう思った瞬間、船体が少しだけ揺れた。
目の前の3D映像を確認すると、この船を中心に放射状にスクラップが吹き飛ばされているのが見えた。
スクラップの一部が宇宙船に当たり、そのうちの1隻が跡形もなく消える。
そしてそこに残ったこの船の映像。ブルーとホワイトのツートンカラー。
三角錐を引っ張って伸ばしたようなフォルムと左右前方寄りに付いている大きな翼。
船体左右に付けられた砲塔。これは貨物船でもコンテナ船でもない。
宇宙戦艦だ!
操舵室のコントロールパネルが一斉に点灯し、私の目の前に空中スクリーンがいくつも展開した。
そこには<P・O・S>というロゴに重なる様にクジラのマークが表示されている。何だこれは。

『ニューロン伝達機能全開放。重力発現粒子の回転を100%から50%へ。耐Gエーテル充填完了。
バーニアオートキャンセラー遮断。エンジン出力は……30%くらいでいいのかなー。あんまり
飛ばしてもねー。あ! そうだ! ヴォルテックス・ドライブもできますけど、ジェシカ艦長、どうしましょう?』
「何だって!? エントリーポイントを潜らず単独でV・Dができるのか!? それを早く言え!
私、お婆ちゃんになる所だったぞ!?」
『ご、ごめんなさいっ!』

宇宙船はその場でこちらの様子を伺っている。銀河連邦保安局の船に至っては、こちらの正体が
判ると遥か向こうまで後退していった。出力なんてどうでもいい。逃げきればこちらの勝ちだ。

「よし、ヴォルテックス・ドライブ準備。ルグフォン星近くまで行けるか?」
『はい艦長!』
「艦長はやめろ。ジェシカでいいよ」
『はいジェシカ艦長!』

 やれやれ。この船がどうであれ、ルーシェはただの子供だな。

52 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:13:46.70 ID:7XIqOxxN.net
こちらが出力を上げたのに気付いたのか、宇宙船の船主に円形魔法陣の様な物が現れた。
奴ら、私達を追いかけるつもりか。
それを確認してか、ルーシェは余裕な笑い声と共に言った。
 
『ふふっ。小魚さん達がザトウクジラの僕に、泳ぎで勝てると思ってるのかなぁ。ふふふっ』

ザトウクジラ? この艦の名前か?
その時、コイルが口を開いた。

「待って! お爺ちゃんの星が見たいの……」
『? あ、はいラミュー星、ですね? 今モニターに……』
「違うの! そんなのじゃなくって本物が見たいの!」
『でもそうすると後ろを向かなくちゃ……。もうヴォルテックス・ドライブの準備もできてるし』
「見たいの! お爺ちゃんにお別れをしたいの!」
『ど、どうしましょう、ジェシカ艦長』

コイルはマルスから貰った小箱を開け、その中身をそっと取り出した。
中に入っていたものは、銀色に輝くハーモニカだった。コイルはぎゅっとそれを抱きしめながら、
ボロボロと涙を流した。
コイルにとってマルスは本当のお爺ちゃんのような存在で、マルスにとってもコイルは本当の孫の様な
存在だったのかもしれない。マルスは生涯独身だった。私達が夢を叶えてくれたと言っていたが、
そういう事だったのか。望んでも手に入らなかった幸せ。疑似的にでもそれが叶ったんだ。
 私はルーシェに命じた。

53 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:15:43.96 ID:7XIqOxxN.net
「180度回頭して」
『で、でもそれだとあの小魚、いえ、あの船と向き合うことになります! 何かされたら……』
「1分でいいから」
『了解です……』

 戦艦は回頭し、正面にラミュー星を捉えた。青く綺麗な、大戦前の地球に似た星。
 
「お爺ちゃん……悲しい時に、これは吹くな。そう言おうとしたんでしょ? 約束するよ」
「コイル……」
「さよなら。マルスお爺ちゃん」

その時、操舵室内に警告音が鳴り響く。正面に居た宇宙船から電磁兵器のチャージ光が見えた。
間、髪入れずにそれが発射され、戦艦に付いている大きな羽に着弾した。

『だ、だから言ったでしょう!? この程度のリニアカノンなら痛くも痒くもないです! 
でも何発も当てられたら……その……あの……戦わなきゃならなくなるでしょ!』

戦艦らしからぬ発言だ。戦わなくちゃならない、か。上等だ。こっちはマルスを殺されてはらわたが
煮えくり返ってるんだ。私はルーシェに命じた。

「あいつ等を撃ち落として。出来るよね?」

54 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:18:22.86 ID:7XIqOxxN.net
『出来ませんっ!』
「なんでよ!? この船は戦艦でしょ!? まさか弾が無いとか!?」
『違います! 戦いたくないんですよ僕は!』
「銀河系で一番強い船だって言ったよね!?」
『それは泳ぎで、です!』
「それなら"速い"って言いなよ! 紛らわしい!」

とんだ腰抜けだ。しかし冷静に考えれば敵討ちをしている暇はない。銀河連邦保安局だって
この時間を利用して対策を練ってくるかもしれない。私は再び180度回頭を命じた。艦首を
どこまでも暗く広がっている空間に向け、大きな羽は船体にピタリと張り付くように後ろに下げた。

『重力発現粒子の回転を止めます。コイルさん、今度は僕の指示に従ってください。
シートに座っていないと危険です。中央のサーチャーシートに座って。
ヴォルテックス・ドライブまであと5秒、4、3……』
  
 コイルはハーモニカを見つめながら寂しそうにシートに座った。
 突然、私の目の前のスクリーンに顎髭の保安官の顔が映った。

「この回線か。ジェシカ=リッケンバッカ―。いや、<ロードランナー>か。あまり遠くへ行くなよ?
俺はお前を必ず……」
『2! 1!』

その画像が乱れて消えると同時に、軽いGを胸に感じた。
突然、コイルは大声で泣き叫んだ。 

「ごめんなさい! ごめんなさい! マルスお爺ちゃん!!」

何故謝っているんだ。謝らなきゃいけないのは……この私だよ。
ごめんね、コイル。

55 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:22:38.03 ID:7XIqOxxN.net
〜おまけ。いんたーみっしょん〜

ラミュー星を離れてから地球時間で2週間ほど経っていた。
 私達はルグフォン星系という、マイナーな宙域にいた。

「待てコイル! そろそろ観念しろ!」
「やーなーのー! 絶対にやだ! 入らなくっても誰も困らないじゃない!」
「困る困らないの問題じゃない! 衛生面としつけの問題だ!」
「宇宙にはバイキンいないってジェシカ言ってたじゃない!」
「ここは宇宙船の中でしょ!? 艦内除菌はルーシェがやってくれてるけどさ!
だいたいお前は女の子でしょうが!」

私は今、コイルを風呂に入れようと艦内で鬼ごっこ中だ。
ラミュー星に滞在していた時も、こんな感じで手を焼いていた。その時は無理やり首筋を掴んで
バスルームへ連れていき、強引に洗ってやったのだが。今回はなぜか手ごわい。
この艦には立派な居住区や食堂が完備されていて、大浴場まである。これでレクリエーション施設が
あったらちょっとした客船だ。操舵室には5席しかシートは無いが、乗組員5人ではかなり持て余すだろう。
一体何人乗りの設計なんだろうか。居住区のベッドを数える気にもならないから、今度ルーシェに
聞いてみよう。
大浴場入り口までコイルを追い詰め、その首根っこを掴んで強引にそこへ閉じこめた。

「ふにゃ〜……気持ちいいなーん……」

湯船に入るとコイルは途端に大人しくなる。入れば気持ちいいと分かっているのになぜ積極的に
入ろうとしないのかは謎だ。
コイルは体を洗っている私に声を掛けてきた。

56 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:25:09.96 ID:7XIqOxxN.net
「ねージェシカー。ジェシカって体は女なのに、どうして男の子みたいにしてるの?」
「みたいにしてるって……。まあその方が都合がいいからだよ。依頼人は圧倒的に
男が多いから自然にこうなったのかな。意識して男にはなってないよ」
「ふぅん……」
「それに、性別を気にするような環境じゃないしね。宇宙ではいつもひとりだ。この方が気楽」
「でも今は仕事中じゃないでしょ? もうちょっと女の子らしくしてもいいんじゃない? せっかく
顔も可愛くっておっぱいもあるのにさー」
「ま、毎日風呂に入らないお前が言うか!? ほら、10まで数えたらさっさと上がる! 
耳の後ろと尻尾の付け根は良く拭いておきなよ!? この間みたいに拭いてあげないからな! 
あとでブローはしてあげるから、部屋で大人しく待ってなさいよ!?」

コイルは10まで数えて湯船から上がると体をブルッと震わせ、浴場から出ていった。
 
―― 今は仕事中じゃないんでしょ?

最終目的地はベルルリウス星だ。コイルと宇宙を往く事はやっぱり仕事なんだろうか。
今の私はどういう私なんだろう。私から仕事を取ったら何が残るのだろう。
まあいい。当てもなく彷徨うより、いくらか気が楽だ。ベルルリウス星でコイルを降ろしたら
ゆっくり考えてみればいい。湯船に浸かりながらそんなことを考えていた。

57 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:26:51.24 ID:7XIqOxxN.net
そういえばベルルリウス星までどのくらいかかるのだろう。私はすぐにルーシェに聞いた。

「ルーシェ。ベルルリウス星までここからどのくらい?」
『あ。え!? そ、その、ふ、古い銀河星系図から新しいのにグレードアップして、
やっと古代アルタイル語を翻訳し終わったところで……。ま、まだちょっと時間が、か、かかりそうで
その……』
「ふーん。ところで、何でしどろもどろなのよ?」
『み、見てないですよ? 見られますけど見てないです! あ、ちょっとだけしか見てません!』
「……ちょっと、だけ? 何を?」
『ぼ、僕はザトウクジラですよ? に、人間の裸なんて喜んで見るわけないじゃないですか!
だいたい管理システムが働いてるから見たくなくても勝手に情報を集めちゃうんですよ!』
「……まあいいか。大浴場と艦長室は電磁JAMを設置して隔離ブロックにするからね」
『ごめんなさい……』

まったく。
この後3日間は、<理性より人間への好奇心が勝ってしまった。今は反省している>という
ルーシェの謝罪が続いた。人間への好奇心って……。女を捨ててるとはいえ、なんかちょっと傷ついてしまうな。

58 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 16:30:17.95 ID:7XIqOxxN.net
〜おまけ2。投稿用 プロローグ〜

私はジェシカ=リッケンバッカ―。
運び屋仲間からは"ロードランナー"ってコードネーム呼ばれてる。年は16才。女。
そうだ、女だ。
男みたいな格好してるじゃないか、って目だね。ああ、銀河を飛び回るには女を捨てちまった方が
何かと都合がいいからね。だけど長い髪だけはどうしても切れないんだ。
相棒は高速無限潜航船"ポセイドン号"。旧世代の小型老朽船だけど、これさえあれば私は銀河系の
どこにだって行ける。ああ、光速航行はしないさ。ヴォルテックス・ドライブっていう便利な航行手段が
あるからね。見かけよりも年を食う事はしたくないよ。常識でしょ?
ああ、あんた、銀河を旅してるんだって? それなら途中まで乗っていくといいよ。見た所あんた、
無口みたいだしさ。私はお喋りな奴が苦手でね、黙っていてくれると有り難いんだ。
代金? そんなもの要らないよ。元々私の気まぐれで声を掛けたんだし、あんたは荷物とは
違うんだからさ。それに私、人は荷物として運ばないことにしてるんだ。
ただ、私と一緒にいると運び屋に"よくある話"ていうものに出くわすかもしれない。
なに、そん時は船を降りたっていい。私もそこまで責任は持てないからね。
それじゃ、お互いの気が変わらないうちに行こうか。宇宙へ。

59 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/23(土) 17:27:48.19 ID:7XIqOxxN.net
あとがき。
はい、お疲れさま。2chでUPするものはここまでです。
さすがにマルスのくだり(戦艦のシーン)は無理があったので、これ以上は進められません。
ただいま改変中です。

最初のあとがきでも書きましたが、勢いで書き始めても構想は出来ていました。
今から20年前ですかねw無謀にも漫画で描こうとしていました。
それを小説でうまく表現できたかというと・・・・・うーん、微妙ですよね。
まだ完成もしてないし。

何故コイルが追われているのか、ベルルリウス星に行かねばならないのかは
まだ謎にしてます。まあありがちな設定なのですが。
本編にもありましたが、彼女は<人の死期を見る能力><嘘を見抜く能力>があります。
『だってお爺ちゃんは・・・・』→『ごめんなさい、マルスお爺ちゃん!』や
髭の保安官に威嚇するシーンがそれです。気付きましたか?ww
これってもう他のマンガや小説で使われてるんですけどね。これは必要ないかなぁとも思ってます。
ただ、この能力欲しさにみんなが追っているわけではないです。

ジェシカの過去もまだ謎にしてありますが、
<地球の世界大戦が6年前に始まった>事と、顎鬚の保安官が言っていた
<6年前の事件>でだいたい想像は付くと思います。
ジェシカは10才にしてとんでもない事をしちゃったんですね。
孤児の自分は居場所がなく、ある組織に使われていた。
言われた事をやって居ればよかったのに、居場所を確かなものにする為に
やってはいけない事をしてしまう。それも誰かが唆し、それが何であるか知らぬままに。
ジェシカ自身は、重大な事をしてしまったことには気づいているのですが、世界大戦の
引き金になった(関与していた)ことはまだ知りません。
あと、話に出てくるコードネーム<ロードランナー>。うーん・・・・ダサすぎるんですけど
使いたいんですよねぇ・・・。


話の流れは無謀にも
銀河鉄道999的なものを目指していました。サーセンw


いつになるか判りませんが、またどこかでジェシカとコイルに会ったら
少しだけでもいいので、応援してあげてください。よろしくです。


                                    ムッシュ52型改

60 :ぺこたん ◆AqK2rHaVtU :2016/01/24(日) 22:21:25.31 ID:+QmjLscH.net
読みました。

61 :ぺこたん ◆AqK2rHaVtU :2016/01/24(日) 22:23:50.40 ID:+QmjLscH.net
で、結局、ベルルリウス星までどれくらいかかるのー!
気になる・・・

62 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/24(日) 23:26:21.97 ID:Ad+dJexi.net
>>61
数千光年。曖昧で悪いんだけど、まともに光速で行くと数千年かかるのは解るよね?
話の中ではヴォルテックス・ドライブを使っても、何年もかかるってジェシカは言ってる。

設定の話になっちゃうんだけど、ヴォルテックスドライブは
 
→     |   異空間    | → 目的地

       ↑           ↑                 
     エントリーポイント      ヴォルテックスアウト ポイント

こういうトンネル構造になっていて、銀河の至る所にこの坑道がはしっている。
異空間の中は水の流れの様に渦を巻きながら、一定方向に向かっていて
早かったり遅かったりもするんだ。
そこを流れに身を任せて宇宙船が通過する事をヴォルテックス・ドライブと呼ぶ。
何故決まってそこに辿り着けるかは、この世界でも謎なんだ。

異空間は時間の概念が無いんだけど、ヴォルテックスアウトポイントから
再びエントリーポイントへ向かうまでの時間がかかったりする。

ヴォルテックスドライブでも直接はいけない距離だから、ジェシカはだいたいの計算で
数年と言っているんだね。

作者側から言うなら、「そんなの俺の気が済むまでの時間」としか言えない。
「ヴォルテックスドライブを繰り返し、やっとのことで辿り着いた」とも書けるしね。
だいたい、40話・・・くらいでしょうか・・・・・。

63 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/24(日) 23:27:52.79 ID:Ad+dJexi.net
ちなみに、銀河系の直径は10万光年です。

64 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/24(日) 23:35:40.19 ID:Ad+dJexi.net
しまった! 書き直してるのUPしてないのか・・・。

この世でその言葉に驚かぬ者は居ないだろう。
ベルルリウス星と言ったら、ここ地球から数千光年離れた惑星。ヴォルテックス・ドライブを
使ったとしても私のロートル船では何年もかかる。

改定版ではこうなってます。

65 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/25(月) 00:17:05.59 ID:d6x2o8cH.net
じゃあ光速でポイントからポイントまで移動すりゃいいじゃん。
ってことになるんだけど、加速から減速の問題もあるし、ウラシマ効果の問題もある。

====================
星も、国も、街も、そして私もたいして変わっちゃいないだろうけど、
随分久しく感じるのは何故だろう。まあ亜光速で長距離をかっ飛んでいたら、
実際に変わっていただろうけどね。亜空間航法のヴォルテックス・ドライブが確立されている現在、
"見た目若者、年齢300才"なんて奴はめっきり減った。稀にこの現象を楽しむギャップジャンキーも
いるけど、私の場合は仕事だ。1件配送を終えて300才なんて馬鹿馬鹿しい。
====================

っていうのが改訂版。
ウラシマ効果を楽しむのは、この世界ではギャップジャンキーと呼ばれていて
意味の無いものとされている。
ちなみにジェシカの船が亜光速で進む距離の目安は・・・。
計算が面倒くさいので、あるサイトを引用。

====================
ロケットは、光速の99.9%で走る。
星間を走る時間(年)=(距離)/(速度)=0.447/0.999=0.448(年)≒164(日)
約164日で、10光年を走ってしまうことになる。
===================

また、

===================
光の速さの90%の速さのロケットに例えるといます。
このロケットの中の人の1秒は、外側の人の0.44倍になっていましたね。

この地球上とロケットの中で同時に生まれた二人を考えると、地球上の人が45才のときに、
ロケットの中の人は20才になっています。つまり、ロケットの中の人の方が年をとらないことになります。
====================================
というのがウラシマ効果です。
ちょこちょこ光速を使ってたらえらい事になりますw

実際に光速を出すことは無理なのでこの足かせがある限り、地球人は遠くへは行けません。
SFの世界でそれを可能にするのが”ワープ航法”や、宇宙船の周りの時間を止めたままで
光速航行をする〜なんて設定なんですね。私の場合はヴォルテックス・ドライブというわけです。

66 :ムッシュ52型改 ◆DASH/wXFGw :2016/01/25(月) 00:21:53.77 ID:d6x2o8cH.net
別にウラシマ効果が足かせになっているわけじゃない。
光速を出しても遠いから〜ってこと。

67 :ぺこたん ◆AqK2rHaVtU :2016/01/25(月) 17:42:44.35 ID:6RlWTPbu.net
なるほどー
おもしろかったですよ
ありがとうございま

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