発達障害支援NPO ラビットハウス

学生さんは名前がない

5月末日―――

私達は再び発達障害者支援センターラビットハウスを訪れました

保登心愛さんの弾ける笑顔に出迎えられ味のしないコーヒーを飲んでいると、新しいメンバーを紹介されました

「この子は天々座理世ちゃん！4月からうちで働いているんですよ」

キリッとした目元と長身―――同性からも異性からも人気なのは間違いなさそうな彼女は深刻な問題を抱えていました

彼女は町中で実銃や刃物を振り回したり、自分が暴力団幹部の娘だという妄想に囚われ様々な反社会的行動をとって問題視されているのです

警察に通報してもよくて事情聴取だけでその日には釈放、悪ければ警察すら来ることはありません

「精神障害者に関わっても仕方がない」ということでさじを投げられ、この施設に収容されたということでしょうか―――

正式に診断を受けたわけではありませんが、保登さんと同じ統合失調症ではないかと言われています

その時、またも食器が大量に割れる音が響き、私は動揺することもなく心の中で小さくため息をつきました

ああ、また香風さんがやったんだな―――

この店ではもはや日常と化した風景にはなっているものの、3ヶ月前から変わっていない…むしろ悪化している現状に薄ら寒いものを感じてしまいます

「チノ！！！何やってるんだ！！！！」

天々座さんの怒鳴り声が響き、香風さんはヘッドロックをキメられもがいていますが店内にいる人間はいつものことかと気にもとめませんでした

暴力的で反社会的な天々座さんが加わったことで、ラビットハウスはどのように変化していくのでしょうか

傍から見ていればコメディ漫画のような一幕ですが、障害に苦しむ当事者にとってはその一瞬一瞬が戦いなのです